お正月は新年を祝う日、お盆はご先祖様が我が家に帰って来る日と思いがちです。しかし、柳田国男著『先祖の話』(筑摩書房)によると、お正月お盆も、「ご 先祖様の霊が我が家に帰る日」だったそうです。お正月にお墓参りをする習慣は今でも各地に残っているそうです。柳田先生の『先祖の話』や『日本年中行事辞
典』(小学館)には、「このあかり」の話があるそうです。これは、「迎え火」のことで、お墓の前で火をたき、提灯へ火(=精霊)を移して家に持って帰りま す。お墓までご先祖様を出迎え「ちょうちんの火」の中に精霊を入れて、我が家に持ち帰ったのです。ご先祖様は、我が家で子や孫たちと楽しい日々を過しま
す。この、日本の先祖崇拝の美しさに魅せられたポルトガル人・モラエスは80年も前に、感嘆の言葉を残しているそうです。
ところで、お盆のルーツは『仏説盂蘭盆経』(ぶっせつ・うらぼんきょう)です。最初にお盆(=盂蘭盆会・うらぼんえ)を行ったのは、今から1,500年ほ ど前(538年)、中国の梁の武帝だそうです。日本では推古天皇の時(606年)、毎年各寺でお釈迦様の誕生を祝う「花祭り」(=灌仏会・かんぶつえ)と
「お盆」が始まったそうです。このお経には、中国の先祖まつりや「孝行」の教え(儒教)が強く入っているそうです。
お経の要点を紹介すれば、以下のようになるようです。インドでは「夏安居」(げあんご)と言って雨期の3ヵ月間は室内で修行します。最終日の7月15日 (中国の「中元」)には、立派なお坊さんたちへ供養します。その後、お釈迦様のお墓に供えた食べ物を、お坊さんと心を一つにして会食をすると、修行したお
坊さんの功徳を、過去7世の先祖に回向(えこう・徳を回すことが)出来るので、あの世で苦しむ亡き父母を救うことができ、その上、生きている父母や親族も 大きな楽しみを受ける、とあるそうです。
お経の大筋は以下のようになるそうです。お釈迦様の弟子の一人・目連尊者(もくれんそんじゃ)は、あの世を見通す超能力(神通力)を得ました。そこで、あ の世の母を探すと、「餓鬼道」で苦しんでいました。目連は母を救いたい一心で、お釈迦様に相談すると、「夏安居(げあんご)の最終日に多くの高僧を供養す れば、その功徳で母を救うことが出来る」と、
教えました。目連はその通りに実行して、永い餓鬼道の苦しみから母を救い出せたと言うお話だそうです。
この内容は、日本のお盆とずいぶん違います。これには、中国の道教・儒教による先祖供養の意味を持ってきたことが、影響しているようです。旧暦の7月15 日はお盆ですが、その日は道教の「中元」にあたります。道教では、4世紀頃から7月15日の中元は、お祭りをしていたそうです。同じ頃仏教の『盂蘭盆経』
が訳され、前出の梁の武帝が初めてお盆の法要を行ったそうです。4世紀頃、中国では7月15日は仏教の「お盆」と道教の「中元」がひとつになり、先祖を供 養する日、亡き人の魂をまつる日となって日本に伝わったそうです。また、中国では中元の供物を親戚や知人に贈る習慣があり、それが日本に伝わり、今の「お 中元」として残っているそうです。
お盆の供養は、「生きている父母や親族に楽しみを与え、過去七代にさかのぼるご先祖を救う」とお経にあるそうです。